はじめに
デジタルトランスフォーメーション(以下「DX」)の推進は、企業にとって不可欠となっています。そこで、経済産業省は、2020年経営者に求められる企業価値向上に向け実践すべき事柄を「デジタルガバナンス・コード」として取りまとめました。
この後、大企業だけではなく中堅・中小企業の経営者(もしくはその支援者)にも、実際にデジタルガバナンス・コードに沿って自社の DX の推進に取り組むことができるよう、2022年4月に、経済産業省から『中堅・中小企業等向け「デジタルガバナンス・コード」実践の手引き 』(以下、「本手引き」と略)が発表されました。
また、本手引きに関する地域別の説明会が、2022年6月下旬から7月にかけて行われたとのことです。(経済産業省サイトより)
中堅中小企業に対するIT化の強化については、これまでも、政府を通じて様々な取り組みがなされてきました。このコラムでは、今回の手引きの概要を記載するとともに、今回、特に強調されていると私が感じた点をまとめてみたいと思います。
デジタルガバナンス・コードによるDXの定義、経営者が留意すべきこと
まず、本手引きによるDXの定義は、本手引きでは、次の通り記載されています。
- 企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、 ビジネスモデルを変革する
- 業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立する。
デジタル技術やデータを有効活用して、顧客・市場を大きく捉えなおすとともに、社内や取引先との仕組みを大きく変えることが求められているのです。
更に、DX推進において経営者が考えるべきこととして、本手引きでは、大きくは次の4つのステップが挙げられています。
- 何のために会社があるか、理念・存在意義
- 5~10年後にどんな会社でありたいか
- 理想と現状の差分は何か、どう解消するか
- 顧客目線での価値創出のためデータ・技術をどう活用するか」
この4つの点ごとに、以下、ITコーディネータの私が気付きを得た点を記します。
何のために会社があるか、理念・存在意義
DX化を推進する上で、「理念・存在意義」が強調されていることが、まずはポイントとなります。理念・存在意義は、一般的には次のような目的で策定されます。
- 企業として不変の存在価値を明確にし、顧客・社会への認知を高めること
- 変革を行うための従業員に理解してもらい、協力を得ること
それでは、会社の理念・存在意義を検討するにあたり、どういったことを考慮すべきなのでしょうか。
会社の理念・存在意義をに検討するにあたって大事になるのは、次の3点かと思います。
- 存在意義を実現する力として、各社の真の強みが考慮されていること
企業の強みを生かしたものでなければ、いくらDX化により企業や商品の価値を高めようとしても絵にかいた餅になります。 - 「顧客・社会への認知向上」「従業員への協力」が得られること
DX化が「顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革する」とある通り、DXは、最近の経営環境を踏まえ、顧客、従業員や取引先を取り巻く社会や環境を、広く意識したものとすることが重要となってきます。この点は、SDGsが近年注目されていますので、皆さんの会社でもある程度実感を持ったものとなっていることと思います。 - 簡潔かつ誰もが理解できる言葉でメッセージを発信すること
上とも関連しますが、理念・存在意義は、多くのステークホルダ、関係者に直感的に理解してもらえるよう、わかりやすい言葉で、出来るだけ端的に伝えることが望ましいです。
5~10年後にどんな会社でありたいか
本手引きを検討する過程で、経産省が中小企業におけるDX推進事例を調査した限りにおいても、クラウドサービスやAIツールの活用で、たちどころにDXを実現した事例は見られなかったとのことです。
最終的な目標は高く持ちつつも、まずは身近なデジタル化から始め、試行錯誤しながらノウハウ蓄積、レベルアップを図っていくことが必要となります。
つまりは、DX化を本当に成功させるには、時間がかかるということです。
その意味で、DX化を中長期的に推進するためには、しっかりとした計画づくりが必要がとなってきます。
私たちITMSでは、こうしたDX計画には、項目レベルとして次のようなことを検討すべきと考えています。
- 改革構造「なぜ」
- 改革主要テーマの精査
- 自社内状況詳細分析
- 効果算定、目標設定
- 施策グループ設定「何を」
- 実施すべき施策の見極め
- 費用概算のイメージアップ
- ITと非ITの施策の識別
- 実行計画の検討「どのように」
- 計画実施項目、取捨選択
- 日程計画イメージアップ
- 実行可能性の見極め
ITMSでは、こうした中小企業が「DX化を推進するための計画」づくりを行うための、支援メニューをご用意しています。ご興味のある方はデジ☆レシピの紹介ページをご覧ください。)
特に「なぜ」「何を」という点については、数年先の中長期での変革を見据えたものとすべきです。とはいえ、こうした計画を最初から全社で推進することは難しいものです。
デジ☆ブログの「DX(デジタルトランスフォーメーション)のロードマップの描き方のヒント」においても、自社の成熟度に合わせたDX化が必要と述べていますが、まずは範囲を絞ってはじめ、徐々に全社に広げるといった段階的な計画づくりが重要です。
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理想と現状の差分は何か、どう解消するか
ここで大事なのは、理想と現状を、事実や数値でデジタルに把握することかと思われます。
DX対象業務の担当・責任者や、経営者に対して、数値に基づく事実を伝えることで、勘や経験のみで行われていた業務の誤り、もしくは正確性を正しく理解してもらうことができます。また、数値に基づく検証を行うことで、検証のスピード及び精度がアップします。
また、上記に掲げたDX計画の策定に際し、「効果算定、目標設定」「実行可能性の見極め」といった事項は、目標をKPIとして設定・測定し、DX計画における意思決定、改善につながるようにしておきたいです。
顧客目線での価値創出のためデータ・技術をどう活用するか
「顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革する」ためには、社内で簡単に取得できる情報だけを分析しても価値は生まれません。本手引きに掲載されている事例では、IoTやデジタルカメラ等を活用してデジタルデータを活用して、新たな知見や機会を得た事例がさまざま紹介されています。
とはいえ、データを十分に活用するには、社員のリテラシーを高める必要があります。
本手引きに記載されていた事例である、三重県の飲食業である「ゑびや」でも、身近なでデータの入力・蓄積から始めるなど、データの活用はステップを踏んで始めたとのことです。現在は、データ種類を増やすとともに画像解析データも活用したAI予測を活用し、需要予測の的中率を90%まで高めることができたとのことです。
まずは自社のレベルに応じた業務のデジタル化や、既存データや身近なデータの収集・活用に着手し、その推進過程で成功体験を得るとともに、段階的にノウハウ蓄積や人材確保・育成し、組織全体に拡大させることが成功の鍵となるのでしょう。
企業規模を問わずDXは実践できる
ここまで「中堅・中小企業等向け「デジタルガバナンス・コード」実践の手引き」について所感を述べてきました。ご興味を持たれた方は、是非経済産業省のサイトを訪問していただき、本手引きを一読されることをお勧めします。
最後に、本手引きにおいて、DX推進の成功ポイントの一つとして「日々発展するデジタル技術を経営の力にするためには、専門的な知見が必須」と書かれています。
ユーザ企業の皆さまにおかれては、DX化の取り掛かりとして、私たちITMSをはじめ、経営とITの両面に見識を持った、ITコーディネータにお気軽に相談してみてはいかがでしょうか。
(執筆:重藤進二)
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