1.はじめに
私は、販売管理、生産管理、会計管理などの基幹業務のシステム化に関わって、早いもので40年近くになります。特に中堅・中小の製造業のお客様へ生産管理システムの導入をご支援する機会を多く持ちました。
昨今のDX化の機運の高まりの中、中小企業でもそれなりの生産管理システムを導入しようとする動きが出てきています。しかし、残念ながら生産管理システムに対する知見が少なく、システム開発ベンダーにお任せになってしまい、使いにくいシステムになってしまうという結果になっていることが散見されます。
そこで、今回は生産管理システムにはどのような機能が実装されるのかをザックリと概観してみようと思います。
2.中堅・中小製造業の基幹情報システムの概観
企業規模の大小に関わらず、製造業の基幹情報システムは下記に示す領域から構成されています。
- 販売管理領域
- 生産管理領域
- 在庫管理領域
- 購買管理領域
- 財務会計領域
- 管理会計領域
この中で生産管理領域は、システム導入の難度が高く、例えば自社の生産形態に適合しない生産管理システムを実装してしまうと、生産現場が混乱してしまい、最終的に使われない生産管理システムになってしまいます。
生産管理システムを正しく構築、導入するためには最低限の知見を持つ必要があります。
このブログでは、生産管理システムの機能を簡単に説明します。
3.生産管理システムの主な機能
(1) 共通
マスタ管理
品目マスタ
製品、構成部品、原材料などの品目について、設計技術情報、在庫関連情報、製造関連情報、工場関連情報、製造原価情報を管理します。
製品構成マスタ
製品、構成部品、原材料などの品目について、親子関係情報、消費量情報、支給関係情報を管理します。
工程マスタ
品目は、加工、運搬、検査などの工程を経て製造されます。作業場所、設備機械、作業者、治工具などを管理します。
作業手順マスタ、作業区マスタ
同一属性をもつ人や設備機械の集まりであり、負荷計算の基準となる情報を管理します。
(2) 生産計画
生産計画
年間生産計画
月次のタイム・バケットで年間の生産計画を作成します。内外の環境の予想、在庫計画、財務政策などを見込んで生産計画とします。
資源所要計画
年間生産計画で策定した計画の実現性の判断、必要な資源の手配のための情報を提供します。
基準生産日程計画
MPS (Master Production Schedule)
現時点に近い部分で、製品、仕込品、サービスパーツごとに、日あるいは週程度のタイム・バケットで生産計画を策定します。
RCP (Rough Cut Capacity Planning)
MPSで立てた基準生産日程計画に対し、工場での生産能力の妥当性を検証します。
所要量計算
MRP (Material Production Planning)
MRPは、MPSで立てた生産計画を下位部材に展開し、部材の所要時期や所要量を算出します。主に以下の4つの機能から構成されます。
- 総所要量計算:
MPS結果である基準生産日程計画を受けて、部品表を参照し、下位品目の所要量をタイム・バケット上に展開します。
- 正味所要量計算:
算出された総所要量をもとに、在庫や注残を加味して賞味所要量を算出します。
- ロットまとめ:
算出された正味所要量をもとに、ロットサイズに合わせて数量まとめを行う。
- リードタイム計算:
納期からリードタイムを差し引き、発注日または着手日を算出します。
製造オーダ発行と購買オーダ発行
CRP (Capacity Requirement Planning)
MRP計算結果の計画オーダをもとに、その品目を製造するのに必要な工程単位に日程展開を行い、その作業を担当する作業区を割当て、その作業区に求められる作業量の負荷山積み計算を行います。
オーダ発行
手配予定日が近づいた計画オーダに対し、現場へのオーダ発行を行う。内作品は製造オーダとして発行され、外作品は購買オーダとして発行され、それぞれ製造指図情報、購買発注情報へ展開されます。
(3) 工程計画
工程別詳細スケジュールと製造指図の発行
作業計画
MRPとCRPを経て計算されたオーダは、作業区別に能力と負荷を把握し平準化しただけです。ここでは、どの工程をどの機械設備を使用して、どういった順序で何時間かけて作業をするのかの計画をたて、工程ごとに着手予定日と完了予定日を算出し、作業計画を設定します。
製造指図書の発行
作業計画をもとに、工程ごとに作業指示が製造指図書として発行されます。製造指図書は、その企業の生産品目、生産形態、規模などに応じてさまざまな書式があります。
工程別の作業進捗管理
作業実績の収集
発行された製造指図の内容に基づいて実施した作業の実績データを収集します。実績を収集する方法として以下のようなものがあります。
- キーボード、タッチパネルからの入力
- OCR、バーコード、スキャナーからの入力
- 設備機械からの自動データ転送
- みなし払出しによる実績収集
工程別の作業進捗の把握
作業進捗はどの製造指図が、どの工程でいくつの品目が加工されたかを管理します。作業遅れは納期遅れにつながり、作業完了が速すぎると在庫費用の増加や在庫の陳腐化を招きます。計画通り作業が進捗するよう管理することが必要です。
生産実績の集計と分析
工程毎に作業が完了すると作業実績(生産数量、作業時間など)に関する情報が報告されます。実績値と計画時に設定した標準値との差異を分析し、生産計画へのフィードバック、標準値の評価、能率の評価、製造原価の計算などが行われます。
(4) 原価管理
要素別原価計算
材料費の計算
材料の消費量に消費単価を乗じることで算出されます。在庫管理システムでこの計算は行われます。
ほとんどが直接材料費であるが、どの製品で使われたか不明な材料や補助材料は、製造間接費として一定の基準で製品へ配賦します。
労務費の計算
賃金、賞与手当、退職給与引当金、法定福利費、福利厚生費として、財務会計システムから情報を抽出し計算します。製造部門の労務費を直接労務費として、管理部門の労務費を間接労務費として計算します。
経費の計算
直接経費と間接経費があり、直接経費は外注加工費、特定設備の減価償却費などです。間接経費は、複数の製品にかかる経費や消費目的が不明な経費などです。
製造間接費の計算
製造間接費、間接労務費、間接経費は一定の基準(配賦基準)で製品へ配賦します。
部門費計算
部門費計算
各原価要素を製造部門、補助部門の個別費と共通費に分類、集計します。次に部門共通費を製造部門と補助部門へ配分します。最後に補助部門費を、製造部門へ配賦します。
原価計算の方法
集計方法の違いによる方法
個別原価計算と総合原価計算があります。前者は製造指図毎に分類集計する方法です。後者は製品(製品グループ)毎に1原価計算で集計する方法です。
原価の種類の違いによる方法
実際原価計算と標準原価計算があります。前者は実際に発生した原価を集計する方法で、価格要因が予定額であっても消費額が実際であれば実際原価計算となります。後者はあらかじめ標準となる原価を原価要素別に設定しておく、原価を計算する方法です。
4.最後に
昨今では、人工知能、ビックデータ、クラウドサービスなどの新たなIT技術の潮流の中で、製造業のシステムもドイツや欧米が先導する形で進化してきています。大企業や先進的な中堅企業は、その流れを自社の生産革新につなげていこうと取り組んでいます。一方で、大半の中小企業は、そういった取り組みが必要であることが分かっていても、資金以前の問題として、自社に人材が不在なため先に進めない場合が多いと思います。
今回は、生産管理システム全体を簡単に短時間で把握できるように心掛け、大変物足りない内容なのですが、まとめ整理しました。お読みいただけると幸いです。
(執筆:梅川英範)
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